リリースに寄せて。

もっとも良いタイミングで浦和に加入してきた,という印象です。


 ハンス・オフトという指揮官によって,「基礎工事」を続けていたファースト・チーム。戦術的な窮屈さを,アウトサイドからも感じられるフットボールではあったけれど,強固な基礎を構築する,という意図は感じられました。


 この基礎工事を前倒しして,上屋構造物へと着手する。しかも,かなり意欲的な上屋構造物を。


 当時のボスが下した決断は,基礎から大きく踏み出すこと,でした。そんなタイミングが,2003シーズンから2004シーズンにかけて,ではなかったでしょうか。


 ファースト・シーズンは,シャーレに手を掛けながら掲げるまでは至らなかった。2005シーズンは,フットボール・スタイルを微調整しながら再びシャーレへの勝負権を持ち,そしてアジアへの鍵となった小さなカップを奪う。2006シーズンには,シャーレを掲げるとともに2季連続で小さなカップを掲げ,2007シーズンにあっては,アジア・タイトルを意味する特徴的なトロフィーを奪うことができた。


 浦和にシルヴァー・ウェアをもたらした,そのうちのひとりであり,その功績が色褪せることはない,と思っています。


 あくまでも,フットボーラーを軸足にして見るならば,ですが。


 けれど,浦和というクラブを追いかけている,という軸足は動かしようがありません。そんな視点も含めて,浦和からのリリースをもとに,再び徒然に書いていこうと思います。


 2009シーズンを通して見れば,ある意味必然的な結論だったように思えます。


 さて。クラブ・フロントと言いますか,コーチング・スタッフに対して,と言いますか。いずれにしても,クラブ・サイドに対して違和感を持ちながら2009シーズンを戦っていたような印象を,あくまでもアウトサイドからですが感じます。

 たとえば,今季から大幅に内容が変化した,ウォーミングアップ・セッション。

 そのセッションにあって,彼だけがボールにこだわったアップを続けていました。最初は,フィットネスに不安を抱えているからなのかも知れない,と思って見ていたのですが,シーズンが深まってきてもその基本姿勢を変化させることはありませんでした。アウトサイドからの勝手な見方なのかも知れないけれど,彼が持ち続けていただろう,今季のフットボールへの違和感が,ウォーミングアップ・セッションにあっても表われていたのではないか,と感じるのです。


 今季のオン・ザ・ピッチから感じたところを書けば。


 2009スペックなフットボールにフィットしているようには思えませんでした。低い位置で相手を受け止める,という守備イメージが強く残っているためか,ライン・コントロールを緻密に仕掛ける中から相手を抑えていく,という形になかなか持ち込めなかったように思います。


 フットボーラーとしてイメージするフットボールと,クラブとして狙うフットボールと。


 この2つの距離が,相当に離れてしまっているように受け取れたし,この距離を縮められた,という印象を受け取ることもできなかった。


 シーズン最終戦終了後,何かを物語るかのような光景がありましたが,あのときは「結論」に限りなく近いものが語られたのであって,シーズン中途にしてすでに,「予告」に近いものは語られていたように思います。それだけに,「契約満了」というリリースは(それはそれで問題なのだろうけれど)それほどの抵抗感なく読めた,という記憶がありますし,今回のリリースに関しても,「来るべきもの」が来た,という印象が強かったりもします。


 クラブとして,新たなフットボールへと踏み出す。それはある意味で,「もういちど基礎工事を」という意味をも含んでいるでしょう。


 再び,高みを陥れるために通らなければならない道を通る。そして,今回のルートはこれまでのルートとは違う。クラブとして,新たなフットボールを熟成させ続けることが高みへ再び挑戦していくためのルート,という覚悟が今回のリリースなのだ,と理解したい,と思います。