フォルカー・フィンケ就任に思うこと。

「戻るべき場所」を失った2008シーズン。


 必然的に,構築すべきフットボール・スタイルも曖昧なままに終わってしまいました。
 どのようなフレームを基盤として,どのような守備戦術を操り,どのような仕掛けを繰り出すのか。
 そのいずれもが,“イマジネーション”に委ねられてしまう。約束事を,ピッチから感じることのできないシーズンでした。


 加えて言うならば,“チーム内競争”がしっかりと機能しているのか,アウトサイドからは疑問を持たざるを得ないシーズンだったようにも感じます。チームとして狙うフットボールが揺らいでいるからこそ,特定のタレントへの依存度が過度に高まり,結果としてスターターの硬直度が高まっていってしまう。


 “ゼロ・ベース”でシーズン後期の戦術パッケージを考えるならば,必ずしもピッチに立っていたスターターだけが最適解だとは思えません。違う解も,恐らくは用意できるはずです。
 にもかかわらず,オルタナティブが見られることはなかったし,このパッケージを加速させるだけの戦術交代が仕掛けられることもなかった。パッケージの設計が戦術を基盤にしたものではなかった,という裏付けになるかも知れません。


 「戻る場所」の不在は,戦術的な不在につながります。その戦術的な不在は,スターターの硬直を招きもする。
 スターターが硬直すれば,戦術交代でチームが加速することもない。


 この悪循環を断ち切るためには,少なくとも「戻る場所」を再構築すること。そして,フェアな競争環境を取り戻すためにゼロ・ベースでの戦力評価をすること。


 新たな体制を構築する必要性が,これほど明確なシーズンもなかったように思います。そして,「仮定論」は確定しました。


 ということで,浦和からのリリースをもとに。


 「個」と「組織」のアンバランス。ある意味,2007シーズンから感じられた要素です。


 スターターとしてピッチに立つ時間が長い選手が,チームを構成するケースと,リザーブとしてダッグアウトに控えている時間が長い選手が,チームを構成するケースとで,チームが表現すべきフットボールに,大きな差を生んでしまうことがありました。
 また,戦術交代によって,明確な戦術的なメッセージがピッチへと伝達され,攻撃面を強める,あるいは守備面を微調整するなどの「具体的なギアチェンジ」が感じられるはずなのに,実際にはそれほど明確なギアチェンジが感じられなかった。


 約束事,ここでは「戦術的なピクチャー」という書き方をすることが多いですが,そんな要素が落ちていることを感じるゲームが,今季はいささか多すぎたように思います。


 フィンケさんも,今季浦和が積み残した課題を感じ取っているようです。


 記者会見での,


 最終的に一つでもいい順位でシーズンを終えることは大切だと思いますが、そのためには選手たちと哲学を共有して、共通の目標やイメージを持って、毎日のトレーニング、仕事をしていくことが大事です。そして、ピッチで戦う心意気、ゴールチャンスを確実に決めていく、そういうことを作り出すことが大切だと思います。

 
というコメントは,ごく当然のチーム・ビルディングが今季,決定的に欠けていたことを示しているようにも思えます。


 基盤からの再構築は,「正攻法」のチーム・ビルディングから。そして,チームでのフェアな競争が機能することによって,チームの新陳代謝を進めてもいく。


 この記者会見は,フィンケさんがどのような哲学を持って浦和を率いるつもりか,明確な方針を示す「年頭教書」のように感じます。