ビッグバンなM1。

「速さ」よりも「強さ」。


 もちろん,速さと強さを兼ね備えていることが理想ですが,バランスを考えるならば「速さ」に傾いているよりは「強さ」にウェイトを掛けている方がいいでしょう。それだけ,トータル・バランスを意識した車体設計をしているのでしょうし,そのマシンを操るライダーも,パフォーマンスが高みで安定している,ということでありましょう。


 であれば,ポイント・スタンディングで2位に80pts近くの差を付けている,と。


 今回は,フットボールを離れて,モータースポーツの話であります。9月28日には,“ツインリンクもてぎ”で第15戦が開催される,motoGPの第13戦がサンマリノで行われ,ファクトリー・チームである“フィアットヤマハ”のエース,ヴァレンティーノ・ロッシポディウムの中央,チームメイトであるホルヘ・ロレンソが2位,と1−2フィニッシュを決めています。このレースに関しては,ヤマハさんが事前情報を含めたきめ細かなレース・レポート(ヤマハ・オフィシャル)を用意してくれていますので,そちらにお任せするとして。


 注目したいのは,ヤマハ勢のシーズン・ランクです。


 ライダー・ランキングのトップ10にしっかりと,ワークス,サテライトが収まっているのです。であれば,コンストラクター・ランキングでも優位を保っています。
 そうなると,彼らが主戦兵器としているYZR−M1が気になります。



 このM1を特徴付けるのが,エンジンです。


 タイトルにも掲げましたが,ビッグバン・エンジン(不等間隔爆発エンジン)を搭載しているのです。ピークパワーを重視するのであれば,爆発間隔は等間隔(スクリーマー)が有利であります。4ストロークは720度で行程が循環しますので,720度を4シリンダーで等間隔に,となれば,180度ということになります。まずはエンジン勝負,と考えるならば,スクリーマーを選択するのは当然でありましょう。


 対して,ヤマハは90度クランクを採用しています。
 この採用理由,ヤマハさんはこちらのページ(ヤマハ・オフィシャル)

 慣性トルクの変動が少ない

という言葉で説明しています。この言葉,ライディング・スタイルと密接に結び付いているように思うのです。レーシング・バイクの特性,と言うべきかも知れません。
 レーシングな世界では,トップスピードももちろん大事ですが,「過渡特性」が大きな鍵を握ります。特にレーシング・バイクでは,アクセルを閉じている時間も意外に存在するようです。そのときにトルクの変動幅が大きいとすれば,コーナに進入するときだったり,コーナリング中での安定性に大きな影響を与えてしまいます。
 恐らくは,エンジン・ブレーキの掛かり方,ということになるでしょうか。ピークパワーを狙ったエンジンだと,必要以上にエンジン・ブレーキが効いてしまう。このエンジン・ブレーキを緩やかに躾けることで,コーナに飛び込みやすくするのでしょう。であれば,ピークパワーを狙うよりはコーナリングでの自由度だったり安定性を高め,コーナでの速度を高めていくという考え方を具体化したのではないかな,と。


 爆発間隔がリザルトに直接的に影響している,と言うのはいささか飛躍が過ぎると思います。ですが,「操る存在」を意識して開発をしている,とは言えるでしょう。ヴァレンティーノ・ロッシホルヘ・ロレンソ,あるいはサテライトのエドワーズだったりトーズランドが持っているパフォーマンスを最大限に引き出せる態勢,としてマシンを考えているのでしょう。
 マシン単体での強さ,ではなくて“パッケージ”としての最適性を重視している(と思われる)ヤマハの開発姿勢が,今季の躍進を支えているように見えます。