さいたまシティカップ2008。

PSMには意味がない。


 チーム・ビルディング初期段階のPSMならばまだしも,シーズン途中の“インターナショナル・フレンドリー”であるPSMには意味がない。リーグ戦の成績に影響を及ぼすわけでもないし,カップ戦の山を駆け上がっていけるわけでもないし。何より,真剣勝負ではない。


 確かに,そういう部分もあるかも知れません。知れませんが,であります。


 PSMは「使いよう」でもあるな,と思うのです。PSMを上手に使えれば,フットボール・スタイルに好影響を与えることもできるように思いますし,実際にそういう経験を経てもいます。そして今回を思えば,間違いなく「使える」ゲームだったと思います。


 浦和にとって,ヒントとなるようなフットボールが中野田で展開されたように思います。


 であれば,ゲームの最中だけが重要だとは思いません。このゲームから得られた戦術的(あるいは,技術的)なエッセンスは,ゲーム後にも意味を持つ要素だと思うのです。


 ということで,さいたまシティカップです。


 PSMなインターナショナル・フレンドリーですから,当然ファイナル・スコアに意味があるわけではありません。そこで,今回は視点を反対側へと移して,対戦相手であるバイエルン・ミュンヘン側からゲームを見ることで,浦和に必要となる要素を引き出してみようと思います。


 前任指揮官であるオットマー・ヒッツフェルトに代わって,2008〜09シーズンからバイエルンを率いるのは,ユルゲン・クリンスマン。であれば,シーズン開幕前のこのタイミングはチーム・ビルディングの初期段階にあたるはずです。ユルゲンさんが狙うフットボール,その基盤を落とし込む段階でしょう。であれば,逆にどういうフットボールを狙っているか,最も分かりやすい形でピッチに表現される可能性があるタイミング,ということになります。


 実際,中野田のピッチには狙うフットボールがかなり明確に表現されたように感じます。具体的に言ってみますと。


 確か,後半の時間帯だったでしょうか。


 バイエルンは前半と同じように,パス・ワークを基盤としながら仕掛けを組み立てていました。そのときに,センターにポジショニングしていた選手は積極的にポジションを崩し,アウトサイドへと大きく回り込むようなフリーランを仕掛けていきます。そして,アウトサイドに開いたタイミングから,今度はセンターへと絞り込むような形でフリーランを仕掛ける。明確にボールを呼び込む動きです。


 あるスポーツ・メディアでは,ユルゲンさんのトレーニング・メニューが紹介されていました。そのトレーニング・メニューからも,パス・ワークを仕掛けの基盤として意識付けていることがうかがえます。恐らく,ドリブルによる突破はスペシャリティとして戦術が熟成された段階で付け加えていくつもりなのでしょう。


 ならば,「縦」への鋭さはまず,スペースを積極的に狙う動きから作り出す。スペースを狙う動きは,パスを繰り出す選択肢を増やし,同時に相手守備ブロックに対してマークの付きにくさ(つまりは,守備ブロックに綻びを生むきっかけ)を作り出すものでもあります。


 そんなバイエルンの現在地は,浦和が表現していくべきフットボールに対する示唆でもあるように思うのです。


 ある意味,カウンター・アタックは浦和のDNAと表現すべきものでもあります。ですが,ここ数季はカウンター・アタックだけを仕掛けているわけではありません。むしろ,カウンターを狙われる立場に変わりつつある,とも言えるかも知れません。仕掛け方がどちらかと言えば,ポゼッション・ベースにならざるを得ない時間帯が多くなっているように思うのです。


 そのときに,「縦」の鋭さがなかなか生み出せない。


 パス・スタイルがスペースを積極的に狙うものではなくて,足元を狙っていくようなもの,という部分が影響しているように感じます。そのために,ボール奪取位置を絞られやすくもある。フィニッシュに持ち込めずに守備ブロックが仕掛けた網に掛かりやすい。チームが前掛かりになっているから,カウンターに対して脆い。


 この課題をクリアするためのヒントが,バイエルンから示されたと見るべきでしょう。


 端的に言ってしまえば,イビツァさんのようですが「走る」こと。ユルゲンさんの狙いもどうやら,フリーランの重要性を徹底して意識付けることにあるようですし,共通項があるように思えます。どれだけ積極的にフリーランを仕掛けられるか,ということになるでしょう。


 パスの選択肢が広がっていけば,仕掛けの幅が広がり,同時に相手守備ブロックにとってはマークを徹底しきれない状況を生み出すことになる。浦和のフットボールがさらなるステップへと上がっていく,そのきっかけはこのバイエルン・ミュンヘンフットボールにあるように思えるのです。