目指せ、ハンマーズ。

いつだったか,「エル・ゴラッソ」紙で面白いコラムを目にしました。


 「東京書簡」の番外編です。


 基本的にはFC東京を追いかけているライター・後藤さんと東京ヴェルディを追いかけるライターである海江田さんがパス交換をしているコラム・セクションなのですが,そのときはエル・ゴラッソ編集部のエディター氏が(恐らくは)海江田さんに提案を投げかけていたわけです。


 いわく。「下町に再移転してみませんか?」


 表面的に見れば,すごくいい加減な提案であるように思うのですが,よくよく考えてみると結構いい提案ではなかろうか,と思うのです。1年を締めるにあたり,ひさびさにフットボール・フリークの視点で,ちょっとイメージをふくらませて「クラブ論」的に考えてみようかな,と思うのです。


 イングランドびいきとしては,どうしてもロンドンとイメージを重ねてみるところがあります。


 まず最初に,プレミアシップに参戦しているロンドンのクラブを思い返してみます。ウェスト・ロンドンでは,スタンフォード・ブリッジ競技場を本拠地とするチェルシーがあります。ちょっと南西方向になればフルハムがクレイヴン・コテッジをホームとしています。逆に,イースト・エンドを本拠地としているのはアップトン・パーク競技場をホームとしているウェストハム・ユナイテッド。そして,ノース・ロンドンではハイブリーからアシュバートン・グローブへと本拠地を移転した(とは言え,ご近所への引っ越し,という表現が適当かと思いますが。)アーセナルホワイトハート・レーン競技場を本拠地とするトットナム・ホットスパーがあります。


 ちょっと多すぎるようにも思いますが,これだけのクラブがトップ・ディビジョンで戦っているわけですね。そして,長い歴史を刻んでもきているわけです。


 対して,東京であります。


 東京はロンドンほどに,エリアごとの個性がハッキリしているわけではありません。だからと言って,対抗意識が少ないかといえば,そんなこともないだろうと思うのです。エディター氏が指摘するように,「山手(英語的に言えば,アップタウン)」と「下町(言うまでもなくダウンタウン)」という言葉が古くからあるように,緩やかであるにせよ色分けは可能なはずです。


 にもかかわらず,東京エリアを本拠地と定めるクラブはともに,多摩地域にある「味の素スタジアム」をホーム・スタジアムとしていて,ホームタウンとしての活動地域も重複してしまっているように見えます。リーグのオフィシャルサイトを見ると,クラブのホームタウンは「東京都」と表記されているのですが,東京都全域を意識した活動を展開しているというよりは,どうしてもトレーニング・グラウンドやスタジアムがあるエリア,その周辺に活動が集中しているように見えるのです。このことを意識してでしょう,エディターさんは下町をキーワードに持ち出してきたわけです。下町気質を「対抗意識」に結び付けてみては,という提案をしていたわけですが,ヴェルディか,FC東京かに限らず,単純に下町を活動地域とするクラブがあってもいいのではないか,と思います。


 差し詰め,「東京版ハンマーズ」でしょうか。


 そのハンマーズ。個人的にも気になるクラブのひとつです。と言っても,オン・ザ・ピッチの話ではなくて,オフ・ザ・ピッチの話です。


 最初に私がアップトン・パーク駅に降り立ったときには,やっぱり違和感がありました。下町と言えば聞こえはいいけれど,決して町並みはキレイじゃあないし。何の予備知識もなければ,降り立った時点で「いささか物騒」と思うかも知れない。ただ,生活に寄り添ったクラブという視点で考えれば,ロンドンのクラブの中でもすごく印象に残るクラブだとも感じます。トップ・ディビジョンを戦うクラブでありながら,地域との距離感がすごく近く感じられるクラブ,と言いますか。


 こういう姿も,実はJリーグが参考にすべきものなのではないか,と思うのです。


 ガンナーズのような位置,ハッキリ言えばビッグ・クラブを狙うクラブが,東京にある。あって然るべきだろうと思うけれど,同時にハンマーズのような姿を意識したクラブが同じ東京にあってもいいと思う。トップ・ディビジョンを戦うクラブだからと言って,みんなが同じ方向を向くことはない。リーディング・クラブであることを志向するクラブがあるならば,その反対に身の丈にあった,でも地域の生活に本当の意味で寄り添ったクラブであろうと強く意識するクラブが出てきてもいい。


 もっとクラブがイロイロな顔を持っていてもいい。多様な個性を持ったクラブが戦うリーグがJリーグであるとすれば,フットボールが「文化」として根付いたことになるのかも知れない。などということを思うのです。


 さて。地味な営業をしているところにもかかわらず,ごひいきいただき感謝しております。あと数時間,でありますが,来たる年も変わらぬごひいきをいただけると幸いです。