ACLが示唆する戦術的方向性。

まったく違う競技ではあるのですが。


 “コンビネーション”という側面を考えるときに,バスケットボールという競技は結構参考となる部分があるように思いますね。そもそも,“ゾーンプレス(プレス・ディフェンス)”という言葉はバスケットボールにもありますし,フットボールが影響を受けている要素も多いように思えます。


 さて,そんなバスケットボールでありますが。


 相手の攻撃をガードが受け止め,ボール・コントロールを回復すると,ここから24秒が経過するまでに攻撃をフィニッシュにまで持ち込んでしまわないといけません。
 相手は仕掛けに対してオールコート・マンマークを仕掛けてくるケースもあれば,ゾーン・ディフェンスを仕掛けてくることもあります。当然,この中間形態だってあるわけです。となれば,1on1での強さも必要なのは当然としても,局面ベースでは相手ディフェンスを数的優位の構築によって崩していく,ということも必要でしょう。そのときに,フォワードとセンター,つまりはフロントコートを構成する3人の選手だけで攻撃を仕掛けるのはなかなか難しいだろう,と。
 となれば,ディフェンス面を強く意識するポイント・ガードやシューティング・ガードが積極的に攻撃参加を仕掛けていくことで仕掛けの分厚さを作り出していくことも求められていく。当然,守備的な局面にあっては,フォワードがガード的な役割を果たすこともあり得ます。


 そんな姿を,フットボールにあてはめてみましょうか。


 ・・・今回は,浦和、アジアの枠を突き抜けるために(2/2) ACL準決勝 城南一和戦(スポーツナビ)と題された,小齋さんのコラムをもとに。


 このコラムの中で,小齋さんは浦和のフットボールを「高度な分業制の上に成り立っている」と指摘しています。となれば,このコラムで取り上げられている坪井選手,啓太選手はバスケットボールという競技ではポイント・ガードとしての特徴を強く持っている選手,という感じになるでしょう。
 そして,小齋さんが期待しているのは,ガードとフォワードを兼任できるガード・フォワード(GF)ではないか,と。


 これを端的に表現してしまえば,“トータル・フットボール”,ということになるのかな,と思います。


 とは言え,“トータル・フットボール”という言葉を強く意識しすぎると,流動性の反動として守備的な混乱を招くことになるし,シッカリと確立されているチームの基盤を崩してしまうことにもなりかねない。もうちょっと実情に即した言い方をすれば,いま表現できているフットボール・スタイルを,違うコンビネーションになる局面でも維持できて,守備的に機能している選手からの仕掛けも必要な攻撃オプションとして意識すべき,ということになりましょうか。
 いまにして思えば,ホルガーさんがシーズン序盤〜中盤にかかる時期,積極的に4バックなパッケージをテストしていた時期に意識していたのは,浦和の基盤にモダン・フットボールの要素を落とし込むことだったのではないか,と。


 ちょっと本題からは外れますが。


 イビツァさんがよく使うタームである,“polyvalence(polyvalent)”という言葉にしても,単純に複数のポジションをこなす能力を示すものではなく,チームが持つ攻撃面,守備面での流動性を高めるために必要となる個の能力,という意味を持っているのではないかと強く感じます。その意味で,基本的に問題となるのは静的な4−4−2とか3−5−2という形ではなく,静的なシステムから導かれるコンビネーションであり,「動的なバランス」だろうと思っているのですが,浦和が指向していくべきフットボール・スタイルも,恐らくは同じ方向軸を志向していくのではないか,と感じます。


 守備的な安定性を絶対的な基盤として位置付ける。そして,ひとりひとりの選手が持っている守備意識を高め続ける。


 恐らく,この基礎構造を変化させることはあり得ないでしょうが,攻撃へと移行していくときに,どのようなコンビネーションを作り上げていくのか,そのオプションを広げていくことが浦和に課せられた課題になるでしょう。G大阪的な要素を,緩やかに落とし込んでいく必要が出てくる,という言い方でもいいのかも知れません。
 そして,ひとりひとりの持っている守備意識をも広げていく。最終ラインやアンカーに入っている選手が積極的にポジションを崩し,仕掛けの分厚さを作り出しているときに,平行して守備ラインの安定性を確保するべく攻撃的な役割を持った選手が局面に応じて守備的なポジションへと入っていく。啓太選手や坪井選手だけが意識すべき話ではなく,チームを構成する選手ひとりひとりが守備範囲をちょっとずつ広げていく必要のある話かな,と。急激な変化は,今季序盤のような混乱をもたらすのかも知れませんが,緩やかに舵を切るような変化はあり得る話かも知れません。


 今季のACLは小齋さんが言うように,将来的に浦和が指向すべきフットボール・スタイルを示唆するものとなるかも知れない,と感じます。