テクニカル・エリアから感じられたこと。

中野田での印象は,いささか違う。


 メイン・スタンドからの視野を確保するために,少し掘り下げられたダッグアウト


 そのダッグアウトに構えているか,あるいはダッグアウト前の階段に足を掛けているか。ギドのようにダッグアウトに掛けられたルーフ,その支柱に寄りかかるように立ったまま戦況をチェックし,積極的にテクニカル・エリア最前方へと飛び出していく,という姿はなかなか見られませんでした。


 しかし,駒場以外のホーム・スタジアムが考えられなかった時代は,どこか前任指揮官と印象が重なる部分もあったように記憶します。ベンチに構えている時間よりも,テクニカル・エリアでピッチへと指示を飛ばしている姿のほうが印象に強い。


 そんな姿が,戻ってきたように感じられました。


 ベンチから,テクニカル・エリアへと飛び出していく。大きなアクションを交えながら,ピッチにいる選手たちに指示を飛ばす。プレーが止まっているタイミングでは,戦術的な確認や指示を給水のためにタッチラインへと歩みよった選手へ伝えていく。いささか,テクニカル・エリアを踏み越えるような形が多かったのでしょうか,フォース・オフィシャルに制止を受けることもあったような。


 浦和を再び率いるようになってからは,冷静な印象がこれまで強かった指揮官が,やはり「鬼軍曹」と言われていた時代の姿とはそれほど変わりがないことを,駒場で示してくれたように感じるのです。


 9月半ばから,チームは水曜日〜土曜日というマッチ・スケジュールをこなしてきた。しかも,海外遠征を含む連戦。チームに掛かる負荷は相当なものがあるはずだし,その負荷に耐えられなくなってしまえば,「高み」を陥れることは難しい。チームとして発揮すべきパフォーマンスを落とすことなく,ひとりひとりのコンディションを見極めてパッケージを組み直していく。難しいハンドリングを強いられてきたはずですし,疲労のピークを越えているだろう大分戦は,リーグ戦でのポジションを維持し,2位以下のクラブにプレッシャーを掛けるためにも重要なゲーム。そんな意識があって,テクニカル・エリアへと飛び出していく時間帯が多かったのだろう,とは思います。


 ゲームが終了して,選手たちがバック・スタンド正面からクルヴァ,そしてメイン・スタンド(ホーム・チーム側ベンチ正面付近)へのあいさつをしているとき,ホルガーさんはトラックに置かれた広告看板に寄りかかるようにして選手たちの姿を見ていたように記憶しています。
 連戦最終戦を,「勝ち点3」奪取という結果をもって終えることができたという安堵感も,恐らくはあったかも知れません。また,7連戦において「勝ち点0」という状況に一度も陥らずに乗り切ってみせた,という部分も作用していたでしょう。選手たちに頼もしさを感じた,という部分もあるかも知れない。


 ただ,それだけではないかも知れない,とも感じます。


 初年度から低迷を続け,クラブが浮上のきっかけをつかもうと招聘した指揮官は,このスタジアムとともチームのパフォーマンスを引き上げていった。いまでこそ実質的な本拠地は中野田ですが,当時の本拠地は名実ともに「駒場」でした。
 ともすれば,選手たちの先にあるスタンド(テラス),そこを埋めるひとたちを見つめていたのかも知れないし,かつての駒場の姿と重ね合わせていたりしたのかも知れない,と(勝手な思い込みに過ぎないわけですが)思ったりもするのです。