鋭くなってきた実戦感覚。

こういう言い方は失礼にあたる,かも知れませんが。


 かつて,駒場のテクニカル・エリアにいた時期とは,チームの姿は大きく違う。


 “Lehrer”としての役割を強く必要としていたチームから,恐らく,メンタル・マネージメントが非常に難しい「個性派集団」へと変貌を遂げているはずです。であるならば,この「個性派集団」のパフォーマンスを最大限に引き出すためには,戦術面での引き出しの多さは当然として,メンタル面を掌握する能力も同時に求められることになる。この点,ゲームを俯瞰する立場にあったTSGから,ピッチレベルにあるテクニカル・エリアから状況を判断する立場へと変わったばかりの時期は,どこか「慎重さ」を感じるところがあったわけです。戦術交代にしても,チーム戦術面にしても。


 この「慎重」な印象はまず,戦術面から変化を見せていきます。


 長く浦和の主戦パッケージであった3バック・システムから,4バック・システムへの本格移行を意識させるようなアプローチを仕掛けていく。もちろん,主力がそろっていくことで3バックを主戦パッケージへと再変更するわけですが,戦術的な引き出しは確かに蓄積されているな,と感じるところはあった。


 ですが,指揮官は戦術面だけが長けていればいいというわけでもない。


 人心掌握面においても,高い能力を持っていなければチームの持っているはずのダイナミズムをネガティブな方向へと振り向けてしまいかねない。(スポーツ・メディアを通じて,という意味での留保はありますが)個性派集団を巧く心理面からハンドルする,という部分で不安定性を感じさせるところがあったように思うのです。


 ですが,浦和、首位G大阪との天王山制し1差(nikkansports.com)という記事,藤中さん(浦和番)が拾ってきた

 「練習の中でストレスをためているのを感じている。G大阪戦でストレスを爆発させて欲しい」。


というコメントには,指揮官の観察眼や心理掌握面での能力に関して,決して実戦を離れていたことによるネガティブは感じられないこと,メンタル・マネージメント面での実戦感覚がいよいよ鋭さを持ちはじめ,個性派集団を束ねるためのポイントをつかんできたかな,という印象を持ったりするのです。


 都並さんが何かのインタビューに答えていたのを記憶しているのですが,当時のヘッドコーチであるネルシーニョの観察眼に驚いた,というニュアンスのコメントをしていたはずです。選手としてのパフォーマンスを冷静に見極め,どこまで使うか,そしてどのようなステップを経由してゲームから外すか,という判断を緻密にしている。それだけに,その判断に納得せざるを得なかった,という趣旨のコメントだったと記憶しています。


 ホルガーさんの心理掌握は,このケースとは逆方向(選手起用に関する判断)ですが,ひとの持っている(もちろん,ネガティブな方向も含めて)心理的なパワーを,ピッチでのパフォーマンスへと結び付けるという意味では,同じ要素を感じます。


 短期的には,確かに波を作り出すこともあるけれど,全体としては上昇曲線の流れにある。チームが描きつつあるカーブと,指揮官が描き出しているカーブは,ある程度相似しているように感じられます。