Turn it on.

フォロー・モーションはある意味,「いつも通り」でしたね。


 それほど,強烈な印象を受けるわけじゃあないんです。それどころか,軽くミートしただけのような感じさえします。
 ですが,放たれたショットを見ると,かなりしっかりと抑えた,それでいて伸びるように加速するような弾道がゴール・マウスへと向かっている。これだけでも,もともと持っている身体能力が相当高いのだろうことが感じられますが,これは間違いなく,“スイッチ”が入っているな,と確信しました。


 フォース・オフィシャルがLEDボードを持ちながら,タッチライン際へと進んでいきます。その左側には,ここ数節リザーブからのスタートとなっている山田暢久選手が控えている。ハーフタイムを挟んで,ロブソン・ポンテ選手を投入していましたから,コーチング・スタッフの戦術的な意図はある意味明確に感じ取れます。


 「ボールを大きく展開しながら,同時にセンターを固めている守備ブロックに揺さぶりをかけること」。


 そして,暢久選手の動きは,そんな戦術イメージをプレーでハッキリと表現するものだったように思います。ボールを実際には保持していないものの,守備ブロックを巧みに引き付けるような動きを積極的にしていたり,ボール・ホルダーに対して,パス・コースを切り開くような動きを繰り返していた。投入直後から,しっかりと“on”だったわけです。それが誰の目にも分かりやすく表現されたのが,ゴールは奪えなかったものの,強烈な印象を残したミドル・シュートだったのだと思うのです。


 もともとポジショニング・バランスには優れた選手だと思っていますし,強烈なトップ・スピードを持っているようには感じられないけれど,その代わり立ち上がりの鋭い加速を持った選手だな,とも感じます。加えて,1on1での守備対応能力も非常に高い。ポテンシャルは十分に高く,そのポテンシャルを存分にピッチに表現してくれれば,と思わずにはいられない選手なのですが,“ポジショニング・バランス”を強く意識しているからか(それとも,スイッチが入らないときがあるのか),時に緩慢な印象を受けたりもする。良くも悪くも,「評価の定まらない」選手のような感じもするのですが。


 今節に関しては,間違いなく「ゲームの流れを取り戻したプレイヤー」だと言って良いと思います。


 2005シーズンから意識を強めつつあるボール・ポゼッションからのビルドアップ,どちらかと言えばパス・ワークとポジション・チェンジのコンビネーションによって相手守備ブロックを突き崩すことを基本スタイルとしつつある浦和にあって,中央とアウトサイドのバランスはバイタルな要素になっています。
 にもかかわらず,リズムが悪いときの浦和は中央に対する意識だけが高まってしまい,良い形で攻撃を終われずに時間を経過してしまうと焦りを生む。その焦りが引き金となり,自分からリズムを崩すことになってしまう。自壊,とも言える図式にともすればはまり込みそうになっていた今節にあって,浦和が持っていてしかるべき,な距離感とリズム感を,途中交代によってピッチに持ち込んでくれた。


 戦術交代のあるべき姿が,今節の暢久選手投入にはあったのかな,と思ったりします。・・・そうは言っても,当人としてはスターター・ラインアップに再び名を連ねることを目標にしているでしょうし。
 こういうことがチームとしての強みとして表われていく。そんな好循環に乗る“スイッチ”に今節がなってくれれば良い。そう思うのであります。


 それにしても,ホントに暢久選手は控えめ,と言うかシャイですよね。


 メディアに対するコメントでは冷静さを感じさせ,的確にチームの置かれた状況,そしてチームが解決していかなければならない課題などを指摘している感じがするのですが,インタビューが終わったあと,観客へのあいさつに向かう姿は,まったくと言っていいほど印象が違う。


 ホント控えめに手を挙げながら,南側スタンド,バックスタンドの前をサラッと走り抜けていく。


 ゴール裏ではキッチリと止まってくれるのか,と思えば,1発目では見事な肩すかし。さすがに観念したのか,2度目はしっかりと止まってあいさつを返していましたがね。