Misread.

確かに,追加点を奪取するという姿勢を明確にするのならば,3人目の戦術交代,その対象がワシントン選手になる,というのはおかしいような感じがします。


 ですが,個人的には結構明確なメッセージが込められていたのではないか,と思ったりします。


 ただ,読み違え(ミスリード)を起こしやすいメッセージを送ってしまったために,ゲームのリズムを手放しかねないような状況に陥ったのではないか,とも思うのです。ということで,今回はちょっと先のエントリを補足するような感じで書いていこうかと思います。


 まず,ワシントン選手が強烈なパフォーマンスを持ったFWであるということは論を待たないところでしょう。ボールを収めるときの懐の深さはもちろん,高いスプリント能力を持ち,一瞬の加速で守備ブロックを置き去りにすることができる。それでいて,冷静にDF,GKの動きを読みながら(あるいは彼らを翻弄しながら)シュート・コースを切り開き,ボールをゴール・マウスへ収めるかのようなフィニッシュへと持ち込む。「理想的」といって差し支えない,FWだろうと思います。


 ですが,攻撃ユニットが彼のパフォーマンスに依存しがちな部分がある。


 例えば,ボールをワシントン選手へと預けたあと,守備ブロックを縦方向,あるいは横方向へと引き出す動きをしていけば,二次攻撃の可能性が高くなるだけでなく,ワシントン選手が動きやすくなるという具体的メリットがあるはずなのだけれど,ワシントン選手の能力が高いからか,ボールを預けた時点であらためて積極的に動き出す,という場面が少ない。
 となると,コレクティブな守備戦術から鋭くカウンター・アタックを繰り出そうとするチームに対しては,彼らが描くゲーム・プラン,その大前提を無条件で提供するような状況になってしまう。


 こんな図式を,コーチング・スタッフは考えたのだろうと思うのです。


 もちろん,本来ならばワシントン選手を最大限に活かせるような動きを周囲ができなければいけないのですが,ゲーム途中ではできることに制限,限界がある。ならば,中盤での守備バランスを修正する一方で,チーム全体が相手を崩し,追加点を奪取するという方向性を,内舘選手投入に伴うメッセージとして考えたのではないか,と思うわけです。ある意味,ロジカルな話ではあります。


 しかし,そのロジックがシッカリとピッチへと伝わるかどうか,というのはまた別の話でもあるな,と。


 戦術交代,その順番も大きく関わっているような感じがするのです。
 直前の戦術交代を考えますと,アレックス選手に代えて相馬選手を投入しています。アウトサイドにフレッシュな戦力を投入することで,前線との連係を高めるという意図があるとすれば,間違いなく追加点を奪取するという明確なメッセージです。ですが,そのあとに,攻撃的なメッセージとは違うメッセージ(のように少なくとも表面的には見える)が感じられる戦術交代があったとすれば,それは確かに混乱をきたすはずです。


 事後的にコーチング・スタッフのシナリオを想像してみれば,決して破綻したメッセージを送っているのではなく,むしろチームとしてのダイナミズムを取り戻すためのアプローチを考えていることが何となくにせよ理解できる。
 でも,“リアルタイムで”読み違えを起こさないメッセージの出し方というのもあるような感じがします。確かに1−0という状況ではあるけれど,相手はリスクを掛けながら攻撃的に来ている。その攻勢を抑え込みながら,同時にゲームを決定付けるだろう追加点を狙いに行く。


 難しいタスクであるがゆえに,チームがクリアしなければならない課題もでてきたのでしょうが,チーム,コーチング・スタッフが進化するためのヒントもまた,同様に提示されているような気がします。