Applause.

フォース・オフィシャルがボードを持って,相馬選手を伴いながらタッチラインに歩み出る。


 掲示された番号は“18”。戦術交代の対象がシンジ選手であることを示すLEDサインでした。


 スタジアム全体から湧いた拍手,そしてチャント。
 先制点を叩き出した選手に対する称賛であることは,間違いないところでしょう。


 実際,ゲーム立ち上がり,先制点奪取の場面は強い印象を残すものでした。


 ボールの軌道をイメージし,センターへと絞り込んでいくトップの動き出しを意識しながら左へと流れていく。右アウトサイドを突破してきた平川選手から供給されたクロス・ボールは,達也選手のスラッシュ・ヘッドによってシンジの足下へと供給される。バウンドを巧みなトラップでコントロールすると,ボレー・ショットを放つ。鋭く,それでいて抑えられた弾道を描いてゴール・マウスへと突き刺さる。


 あまりにも強烈な印象を残すフィニッシュだったように思います。


 ワールドカップ終了後,どこか精彩を欠いていたような印象もあるフットボーラーが,本来持っているパフォーマンスを存分に見せ付けてくれた。確かなことです。そしてそのきっかけは,スポーツ・メディアが言うように代表効果,なのかも知れません。


 だが,ハッキリ言ってしまえば,きっかけが何であろうと構わない。


 何よりも,“シンジらしさ”を取り戻すきっかけにこのゲームがなってくれることの方が圧倒的に大事だと思う。


 高いポテンシャルを持ち,広い視野も持つ。それゆえに,ディフェンシブ・ハーフとしても,アウトサイドとしても高い適性を見せていた。だが,本来主戦場とすべきプレー・エリアは低い位置ではない。ボールを収めて反転すると,相手守備ブロックにとって直接的な脅威となり得る位置のはず。高い位置でのプレーこそが望まれていたと思う。視野の広いパサーとして,トップやアウトサイド,ディフェンシブ・ハーフなどパス・レシーバのポテンシャルを引き出すだけでなく,その広い視野を「自分を活かすために」存分に使える位置で,相手に対する脅威を演出してほしい。そして,何よりもフットボールの楽しさを,全身で表現してほしい。


 シンジのパフォーマンスに魅了され,持てるポテンシャルの高さを目の当たりにしたひとならば持っているだろう,歯痒さにも似た想い。そんな想いに応えるかのようなプレーが,先制点奪取の場面だったように感じるのです。


 ・・・ひょっとすれば,フットボールの楽しさを取り戻してくれたかも知れない。ワールドカップ終了後,シンジ選手は「フットボールに飢えていない」というコメントを残していたように記憶していますが,それは「楽しさ」を失ってしまったことと限りなく同義のような気がします。その楽しさを取り戻してくれたなら,そのことにこそアプローズを。そんな気がしています。