節目であり、基礎。

各スポーツ・メディアが使っている写真を見て,達也選手がいまだ直面している「現実」をあらためて認識したような気がしました。


 戦線離脱直前まで,達也選手は小型のプロテクターをストッキングの内側に入れていたように記憶しています。


 できるだけ速くトップスピードに持ち込みながら,同時にしっかりとしたボール・コントロールを。


 そんな要求を満たすためには,ライトタイプのシンガードがマストだったのでしょう。ほかの選手はストッキングを膝下近くまで引き上げているけれど,達也選手はあまり高い位置までストッキングを上げてはいなかった。そう,絶妙のコンビネーションを見せてきた,かつてのエース・ストライカーがしていたように。


 ですが,復帰後の達也選手を見ると,ちょっといままでとは違う印象を持ちます。


 確かに,ストッキングの位置は以前のまま。
 ですが,その下にあるものは,かなりしっかりとしたプロテクター(あるいは大きめのサポーター)のように見えるし,シンガードもいままでのものより心持ち大きめであるような感じがします。
 となれば,恐らくドリブルを仕掛けているときのフィーリングは変わっているはずです。それでも,今節の達也選手は,戦線離脱前と変わるところのないパフォーマンスをピッチ上に表現してくれたように思います。


 彼のプレーが持っている最大の魅力は,常に「ゴール」を意識していることにあるように思います。どういう位置からでも,ゴールマウスを捉えることができると判断すれば,躊躇することなくシュート・モーションに入る。ペナルティ・エリアへ深く侵入しながらシュートを狙うこともあれば,エリアに踏み込む手前のミドルレンジからショットを放ちもする。「ゴール」を常に意識しながら,逆算的にプレーをしている,ある意味では当然のことなのですが“ストライカーらしいストライカー”であると思っています。
 そして先制点奪取の場面も,思えば達也選手が持っている個性を存分に表現するようなものであったように思います。右アウトサイドに開いている位置でボールを受けると,スピードに乗ったドリブルから中央に絞り込むような動きを見せる。ゴールマウスを捉え,シュートレンジに入ると躊躇なくゴーリーの左側を狙ってミドルシュートを放つ。鮮やかすぎるほどに鮮やかなショットだったように感じます。


 相手守備ブロックにとっては猛烈な脅威,そしてチームにとっては重要なピースが戻ってきてくれた。


 うれしい限りですが,スポーツ・メディアは「ひとつの到達点」に達したかのような書き方をしている。オシムさんが大熊さんとともに等々力に足を運んでいたこともあってか,非常に高い期待がその裏に隠れてもいる。


 そういう部分もあるかも知れない。確かに実戦でのゴールはひとつの節目です。


 ですが,本当の意味での“トップフォーム”を取り戻しているわけじゃあない。となれば,再び進化をはじめるための基礎を等々力で見せてもらった,というように感じているのです。ストッキングの下にあるサポーターやプロテクターが次第に小さくなり,達也選手のプレーが鋭さをさらに増すことを期待してやまないのです。
 そして,達也選手が100%のパフォーマンスを引き出せる,本当の意味でのトップフォームに戻ったとき,チームはどんな進化を遂げるのか。本当に楽しみです。