ディスティラリーのように。

いつも屋号関係の話から入っていますので,今回はちょっと違う話から。


 ウィスキーの蒸溜所を“ディスティラリー”と言います。


 ディスティラリーで最も目を引くのは,やはりポットスチルと呼ばれる蒸溜釜でしょう。このポットスチルの形状によって,お酒の個性が大まかに決まってきます。そして,蒸溜されたばかりのニュー・ポットと呼ばれるものを熟成樽に入れて,熟成させていくとウィスキーの特徴でもある琥珀色が生まれ,独特の香りが生まれてきます。
 熟成期間は単純に決められるものではなく,ニュー・ポットがどういう仕上がりになっているかや熟成樽の個性がどうニュー・ポットに影響を与えるか,そしてディスティラリーの地理的な条件などが複雑に絡み合いながら決まっていくのだと言います。


 いまの浦和は,熟成が進んだモルトが絶妙に組み合わされたブレンデッド・ウィスキーのようなものかと思います。「エル・ゴラッソ」紙(2006年4月19日・20日号)でも指摘されているように,いまの浦和には新人王候補は確かにいません。それだけ,スターター・ラインアップ,そしてリザーブに名を連ねている選手たちの層が厚くなっているということを示している,と言えば言えるようにも思うのです。良質な原酒が揃い,そのブレンドを見極める腕を持ったブレンダー(コーチング・スタッフ)がいる。桑原さんが使っている「円熟期」という表現も決して外れたものではない,と感じます。


 しかしながら,同時に思うこととして。


 いまの浦和が持っているテイストを維持できるか否かは,どれだけ良質な原酒を生み出すことができるか,という部分にかかっているように感じます。ポットスチルにあたるだろうサテライトや下部組織が充実し,スターター・ラインアップを脅かす存在となりうること,と言い換えられるように思います。内側から世代交代を促すだけのプレッシャーが生じてくることが,フットボール・クラブにダイナミズムを与えるのだろうと思います。
 また,熟成樽に原酒を入れた後の熟成期間をしっかりと見極められることも,また重要なものとなるように感じます。コーチング・スタッフがしっかりと選手の特性を見極め,ストロング・ポイントを大きく引き延ばすことができるならば,内側からのプレッシャーはより明確なものとなっていくのではないか,と感じます。


 「強さ」を継続していくためには,あらゆることが同時並行的に求められる。その内容は,どこかディスティラリーの機能に似ているようにワタシには感じられるのです。