Catalyst.

「触媒」であります。


 化学反応を促進する効果を持ちながら,自身は反応の前後において性質が変わらないもの,というような定義付けが一般的かと思います。


 ちょっと考えると,フットボールと触媒というのは無関係のように思いますが,今季の浦和での戦術交代は,案外この言葉をイメージさせることがあるように思いますし,今節はその典型だったように思うのです。


 通常,戦術交代は“ギアチェンジ”と形容されることが多いように思います。


 ゲームのリズムをしっかりと掌握しているならば,そのリズムを失うことなくスマートにゲームをクローズするためのギアチェンジ。反対に,ゲームのリズムを掌握できずに劣勢を強いられているときには,その停滞したリズムを変化させ,再びチームにダイナミズムを与えるという意味でのギアチェンジというように。
 ですが,今節における戦術交代はリズムを変えるという意味よりも,“チームが本来持っているリズムを取り戻させる”と言うか,持てるポテンシャルをフルに発揮させるためのきっかけ”を与えるためのものであるような感じがしました。前半,ともすれば戦術的なピクチャーが明確にフォーカシングできていない,それゆえにチームが持っているはずのパフォーマンスが充分にピッチ上で表現できていないような感じを持っていたのですが,右アウトサイドの戦術交代をきっかけとして,パワーが充分に伝わっていったような感じがします。


 その端緒となったのが,岡野選手のシンプルなプレーだったように思います。


 ゴールマウスにボールを沈めるという明確なフィニッシュから逆算するようにプレーをイメージし,シンプルにボールをボックス付近に送り込むことを強く意識しているかのような。
 そのプレーが間違いなく,チームが持っているポテンシャルを発揮するきっかけになったように思います。本来持っているものをうまく引き出す。まさしく,「触媒」のような役割を岡野選手が担ってくれている。“スーパーサブ”というと「飛び道具」というイメージがどこかにありますが,チームのパフォーマンスを100%引き出すために必要なプレーをシンプルに繰り返すというのも,チームが本来発揮するべきパフォーマンスを引き出すために重要な要素だと感じます。


 プレーを通して,戦術的なイメージをほかの選手たちに伝えていく。


 見方を変えれば,指揮官がイメージする戦術的なピクチャーを与えられた時間の中でプレーを通して表現し,チームのポテンシャルを引き出すきっかけを与える。そんな役割を果たせる選手は,やはりスーパーなのだとワタシは感じます。