マニュアル・フォーカス。

ブリティッシュ・ウェザーを思い出させるような,低く垂れ込めた雲が印象的なマッチデイでありました。


 ですが,本家ブリティッシュ・ウェザーはその悪天候があまり長く続かないというのもまた特徴的です。そこでポジティブな話をすることで,名古屋戦関係をしめますと。


 考えてみれば,2004〜05シーズンはアクシデントによってゲームから遠ざかっている時間の方が圧倒的に長かった。しかも,レジスタと言うよりもオーセンティックなディフェンシブ・ハーフというポジションでゲームに入ることが多くなっていた。
 比類なきパス・センスを持ち,他のプレイヤーよりも間違いなく広い視野を持っていることで,より低い位置からのゲーム・メイクを意図したのだろうと解釈できる。ただ,不本意な部分もあったに違いない。


 そんなシンジが「本来の居場所」に戻ったからと言って,すぐにプレー・イメージが高次元でシンクロするかと言えばそれは難しい,という評価になるだろうと思う。加えて言えば,現在の浦和で求められるオフェンシブ・ハーフ像はトレクワトリスタとほぼ相似形を描くように思う。誰かを生かすことも間違いなく求められるが,同様に積極的なポジション・チェンジからフィニッシュに関与することが求められているように感じる。それだけに,トップとの位置関係など意識すべき要素は多くなっているのではないか,と想像する。2006シーズンが開幕してから6ゲームを消化したのみ。シンジのポテンシャルを思えばまだ秘めている部分が多いようにも思えるものの,そのポテンシャルを解き放てる時期は近づいているのではないか。


 現在,ほとんどのカメラはオート・フォーカスを採用しています。


 ですが,かつてのカメラでは自分の目と感覚を頼りにしながらフォーカスすることが求められます。このことを好意的に捉えれば,自分の目と感覚によっていろいろなニュアンスを生み出すことが可能になるということも意味するように思います。シンジ選手はそのニュアンスを探っている状態なのかな,と感じるのです。
 恐らく,シンジ選手の中ではいろいろなアイディアがあるのだろうと。ただ,そのアイディアをうまくチーム戦術の中に織り込めずに難しさを感じている部分があるのかな,と感じます。本来,そういう戦術イメージを摺り合わせる場であったはずのキャンプと代表日程が重なり合ってしまったことで,実戦を通してのシンクロナイズを余儀なくされている。


 そんなシンジ選手ですが,名古屋戦ではひとつのヒントをつかんだかな,と。


 結果論で話をすればイロイロと言うことはできるけれど,そんな部分よりもうまく守備ブロックのクラックを突きながら前線へと顔を出してフィニッシュに関与し始めている。スタッツもそのことを示してくれているように感じます。1トップ2シャドーを機能させるためには,シンジのイメージが高まっていくことが不可欠のファクタだと思います。そのきっかけを名古屋戦でつかんでくれているならば,レッスンに払った授業料は決して高くはないはず。そして,シーズンを通してこのリザルトを「価値ある勝ち点1」としてくれれば良い。そう思うのです。