トラブル・シュートとチューニング。

モータースポーツの世界では,“シェイクダウン・テスト”の段階で一定程度の負荷を掛け続けることで,マイナー・トラブルを出し尽くすというステップを踏んでいるようです。


 それでも,実戦では往々にして「想定外」の部分からトラブルが発生します。グループAにおいてデビュー戦から29連勝という記録を打ち立てたマシンも,投入直後にはギアボックスに大きな問題を抱え,ギリギリの状態でフィニッシュ・ラインを越えていたということを聞き及んでいます。


 もうひとつ,楽器の話をしますと。


 ちょっと楽器を使ったことのあるひとだと,440とか442という数字に覚えがあるかと思います。楽器のピッチを合わせるための基準です。どういう場所で,どういう温度や湿度のある環境なのかというだけで調整の必要が生じます。ですが,この調整過程を経なければ美しいハーモニーは到底実現できない。地味だけれど,最も重要なプロセスという見方ができるかと思います。


 ちょっと遠回しなことを書きましたが,同じことが言えるのかなと感じるわけです。


 PSMやTMでは,100%のパフォーマンスがぶつかり合うということは想定しにくい。むしろ,ゲームごとにクリアすべき課題を設定し,その課題をどういう形でクリアしているかという部分をチェックしているのではないか,と思います。チームに猛烈な負荷がかかった状態でコンビネーションがどのように機能するか,という部分はシーズン開幕前の段階では未知数のように感じられるのです。


 また,代表選手を多く抱えている今季は「物理的(時間的)な問題」もある。
 リーグ戦を想定してコンビネーションを構築しようにも,攻守の鍵を握るキープレイヤーが欠ける状態ではチームが100%のパフォーマンスを発揮するのは難しい部分がある。ディフェンス・ラインは2004シーズンや2005シーズンにおいてすでに組織的な連携が構築されているが,戦力補強によって陣容を変えた前線〜ミッドフィールド〜アウトサイドにおける連携は確かに熟成不足だろうと思う。
 一方ではディフェンス・ラインにかかる負担を軽減し,あるいはボール奪取から攻撃の起点として機能する。他方,浦和の攻撃リズムを組み立てる重要なファクタでもある。浦和の生命線と表現しても良い。そんな部分をあらためて認識させられたゲームが,開幕戦ではなかったかと思う。


 チーム・コンセプトに決定的な問題があるわけではない。むしろ,ここ数季のフォーマットはほぼ変わっていない(=基準とすべき周波数には変化がない),と評価して良いと思う。問題は,浦和というクラブが持っているストロング・ポイントを100%引き出せるだけの連携,そしてその連携を引き出すための熟成期間だろうと思うのです。
 そういう見方をすると,実際には“トラブル・シューティング”ではなく,ちょっとした「調律」を必要としているだけなのかな,と感じます。