フィットしたギアリング。

いつものように,ちょっと屋号関係の話からはじめますと。


 モータースポーツに造詣の深い方ならばご存じか,と思いますが,レーシング・マシンのギアボックスは1種類だけではありません。転戦するサーキットの特性に合わせて,何種類かのギアボックスが用意されています。たとえば,低速コーナが連続し,マシンの加速性能が要求されるようなケースでは,立ち上がり加速を鋭くするギアが組まれたギアボックスを使い,反対にストレートが長く,コーナもスピードが乗った状態で通過できるような緩い曲率のターンが多い場合は,加速性能よりも最高速を稼ぐことを意識したギアを組んでくる。そして,ライダー(ドライヴァ)はその特性を最大限に引き出すことが求められる。
 それゆえ,ギアボックスの選択を準備段階で間違ってしまうと,レーシング・マシンが本来持っているはずのポテンシャルが引き出せなくなってしまいますし,ドライブする側もギアボックスの特性を十分に理解して走らせないと,やはり持てるパフォーマンスを100%発揮することはできないことになります。


 そして,フットボーラーはギアボックスに組み込まれているギア(歯車)の役割と,ギアボックスを操るライダーやドライヴァの役割を兼ね備えているように思えます。どういうライディング,ドライヴィングをすればギアボックスの性能を100%近くまで引き出すことができるのか,その明確なイメージをつかむことができたのが今節ではなかったか,と感じます。


 今節の前半は,確かに相手の執拗なまでの組織的な守備応対によって攻撃が抑え込まれた部分もありますが,決してゲームを左右するまでの致命的な問題を抱えているようには思えなかった。チーム戦術というフレームを冷静に見れば,柏戦を契機にチームに本当の意味でフィットしたであろうFWをどう生かすか,そしてそのFWによって周囲はどう生かされるか,を強く意識していたように思えます。
 ただ,前半に状況が膠着してしまったのは,ボールの動かし方にちょっとした問題があったからでしょう。ポジション・チェンジという修正によって,後半立ち上がりからボールの走り方に対する印象は好転しました。そして,前半から見えていた共通した意識によって,サイド攻撃が活性化されたのではないか,と感じます。ギアリング特性が本当の意味で理解され,チームとしてのパフォーマンスに直結するようになってきた。“Derby Match”を制したことももちろん重要ですが,今までの浦和では多用されてこなかったギアを使いこなすためのヒントが,サイド攻撃の活性化には隠されていると感じるし,サイドが生きることで「縦」へのスピードという今までの武器に新たな意味が生まれ,戦術的な幅の拡がりを手にすることができる。3−1という,ファイナル・スコア以上の収穫だと感じます。