欧州型クラブへのステップ。

欧州的なフットボール・クラブへまた一歩,近づこうとしているような印象を持ちます。


 個人的に言えば,Jリーグというのは「非常に面白い実験」だな,と思うのです。


 フットボールの母国,イングランドの多くのクラブはフットボールを楽しむ労働者の同好会がその基礎となって,現在のプロフェッショナル・フットボールクラブという形に徐々に進化していった。対して,日本ではもともと大学がスポーツの受け皿だった。トップレベルのフットボールを表現できる主体は,かつてにおいては大学だったわけです。その主体が財政規模の大きい実業団に移行し,長く実業団がスポーツを支えてきた。プロフェッショナルへと移行するときも,その初期段階にあっては間違いなく,実業団の影響が大きかったはずです。
 でありますが,他競技を含めて違う存在がクローズアップされるようになってきた。恐らく,そのきっかけは「不可抗力」(=業務再構築に伴い,決して広告宣伝効果が高いとは言えないスポーツへの援助を縮小する方向性へと方針を転換した会社が多い)でしょうが,その支持基盤がいよいよ「市民」にシフトしてきた。そのシフトのきっかけをJリーグは上手に作ったように思うし,浦和は,犬飼さんがボスになって以降,「おらが町のクラブ」へのシフトを着実に,かつスピーディに進めているように思えるのです。


 前置きがかなり長くなりましたが,今回はひさびさ「クラブ論」にかかわる話などを埼玉新聞の記事読売新聞の記事をもとにちょっと書いていこう,と思います。


 まず,5億円規模の第三者割当増資を三菱自工に対して打診した背景を,両者の記事をもとにまとめてみると,犬飼さんが社長に就任した2002年度以降,積極策が奏功した形で黒字転換に成功し,総収入はJリーグトップを記録するまでになった,と。しかしながら,「損失補填契約」の存在によって2002年度以前の赤字分を親会社・三菱自工に返還する形となり,「損失補填契約」を解除し,独立採算制に移行した段階での内部留保はゼロの状態であるということです。
 となれば,埼玉新聞の記者氏(恐らく,河野さんでしょう)が書いているように,


 損失補てん契約を解除したことでクラブには金がなくなった。選手の獲得や育成にはいつでも自由に回せる金がいる。新たなアイデアをみつけても実行するには金がいる。浦和が今回、三菱自動車に第三者割当の増資を依頼した背景がここにある。犬飼社長は「銀行に資金提供してもらえるわけではないし、内部流用できる資金がないといけない。経営者として当然のステップを踏んだまで」と説明した。


という流れになるのは当然だと思うのです。


 増資の引受先に関してはまだ確定していないのでしょうが,今までもオフィシャル・パートナー契約などで関係を持っている地元企業などに広く出資を求められるならば,地元密着という姿勢を財務面でもアピールすることになると思います。
 確か,リヴァプールもメイン・スポンサーは世界的なビール・ブランドであるカールスバーグですが,アンフィールドにあるコンパートメント(ホスピタリティ付きのボックス観戦席)の大部分はリヴァプールをスポンサードしている地元企業が押さえている,というような話をスタジアム・ツアーのガイド氏に聞いたことがあります。埼玉スタジアム2○○2を多く使用するようになり,パートナー契約などの条件面がイングランド,スペインやドイツのクラブとある意味近くなった,ということかも知れません。


 ともかくも。


 イングランドの多くのフットボール・クラブや,バルサなどが採用する“メンバーシップ”制を導入できる素地を持ったクラブが,まずクラブ組織,財政面で地域密着度を高めてきている。それ以前の問題として,クラブ母体であったり,親会社への打診を経由することなく,クラブが機動的に選手獲得などに動く,そのために必要な財政基盤を整備することが可能となる。間違いなく歓迎すべき話かな,と思いますね。