正常進化。

今回はひさびさ,屋号に忠実な話からはじめることにします。


 とあるバイク雑誌の特集で,興味深い表現に出会いました。


 その記事を書いたひとは,過去ライバル・メーカの開発ライダー,そしてワークス・ライダーであった経験を持つモーター・ジャーナリストさんなのですが,スズキのスポーツ系フラッグシップ・モデルであるGSX−Rシリーズを評して,「過去からの積み重ねによる進化形」と書いています。2005年モデルのGSX−R1000は,1985年にリリースされたGSX−R750からの「正常進化形」として位置付けられる,というわけです。
 ただ,同時にそのモーター・ジャーナリストさんはスズキの進化に対して「もどかしさを覚えたこともある」ということを書いてもいます。ライバルが技術的進化を遂げたときも,決して自分たちの開発スピードやリズムを変えようとしなかったからかも知れません。


 この記事を読んで,時に進化とは明らかに見えるものだけではないな,と感じるのです。むしろ,表面的には「停滞しているのかも知れない」とか,「退歩しているのではないか」と思うときこそ,むしろその後のジャンプアップにとって重要な時期だ,ということが見えてくるように思うのです。もともと持っている資質をどういう方向性で伸ばしていけばいいのか。当然,そこには冷静な「観察」と「分析」があるはずです。


 かなり前置きが長くなりましたが,チームの強化ステップも同じかな,と思うのです。


 今季の浦和にしても,基本的に「過去からの積み重ねによる正常進化」の過程にあると思っています。


 ただ,昨季のベースとなった戦力がシーズン開幕前,そしてシーズン途中に離脱したこと,戦力離脱に伴う新戦力獲得により,新たに観察,分析に要する時間が必要になったことは間違いない。そして,戦力構成が変わった以上,昨季のスタイルをそのまま継承するだけでは,チームのパフォーマンスを最大限に引き出すことにはならない。
 恐らく,シーズン途上においてチームの基本戦術がハーフコート・カウンター的なフットボールからリトリートを相対的に強く意識するフットボールへと転換するかのような印象を受けたのは,チームとしての連動性を昨季以上に強く意識させ,同時にポゼッションの意識を少しだけ高めることでゲームを主体的にコントロールするような方向性へとチームをドライブしようという,そんなロジックがあったのではないか,と思うのです。


 そして,その試行錯誤が,ゲーム,そしてファイナル・スコアにも表れていたように思うのです。


 しかし,この試行錯誤がまったく無意味なものだったのか,と問われれば,むしろ「必要不可欠な要素」だろうと個人的には感じています。その点,大きなヒントだと思うのは,PSMで対戦したバルセロナ,そしてマンチェスター・ユナイテッドフットボールです。ゲーム単位でカウンター・アタックを基本とするスタイルと,ポゼッションからの攻撃を意識するスタイルを使い分けているわけではなく,90分(プラスアルファ)という時間枠の中で,鋭く加速,あるいは急激に減速するかのようにスタイルを使い分けていく。指揮官が最終的に目指すスタイルは,恐らく今季のPSMの中にあると思うのです。昨季のヴォーダフォン・カップを契機として,鋭くファースト・ディフェンスを仕掛けるスタイルが定着したように,必ず今季のPSMでバルサマンUが見せたエッセンスがどこかに表れてくるはずだと考えるのです。
 実際,先日行われた柏戦では,数的優位の状況にあっただけに割り引いて考えるべきところはあるけれど,ゲームの中で戦術的なギアチェンジを柔軟にやっていけるのではないか,という期待感を持ちました。


 その意味で,いまだ進化途上にあるチームだと思っているし,どういう進化があるのか,見てみたいのです。プロフェッショナルである以上,「結果」は重要な要素だけれど,それだけを望んでいるわけではないわけで。どう強さを増していくのか.そんな興味もあっていい,と思うのです。
 残り7ゲーム,チームが正常進化していく方向性を示す予告編,あるいは導入部を見せてくれることを期待しています。