本戦仕様へのモディファイを考える。

以前,杉山さんのシンプルな議論に反発する形で『「数字」の持つ本当の意味。』というエントリを立て,選手間のコンビネーションを引き出すためにはどういうシステムを採用することが重要か,という視点から3バックを採用すべきか,それとも4バック・システムを採用するべきなのか,という議論がなされるべき,ということを書いたことがあります(3月のアーカイブに収まっているはずです)。


 とは言え,あくまでもシロートの目線であり,プロフェッショナル(あるいはプロフェッショナル経験を持つ人間)の意見が見てみたかったわけです。


 そう思っていたときに,“Number”(629号)に掲載されている小齊秀樹さんの記事で,都並敏史ベガルタ仙台監督,三浦俊也大宮アルディージャ監督,そして進藤健仁さんが日本代表のディフェンスについてインタビューに答えていたのですが,その中でワタシがぼんやり考えていたことにも的確に答えてくれたように感じます。個人的には,非常に興味深く読ませていただきました。


 昨日は敢えて書かなかったことですが。


 恐らく,日本代表がゲームによって印象を大きく変えてしまうのは,チーム全体としてどういう形で相手のボールを奪い(=具体的に言えば,どの時点でファースト・ディフェンスを仕掛け,どういう囲い込み方をするのか,ということでしょうか。),どうシンプルに攻撃につなげていくのか,という基本的なピクチャーが選手によって微妙にズレを生じているからではないかな,と思うのです。
 言ってみれば,コンビネーションの基礎となるものにブレがあるような感じがするわけです。そのシワ寄せが端的に表れるのが,ディフェンスの場面ではないでしょうか。


 また,中田英寿選手のコメント(日刊スポーツ)にもあるように,チームとしてブラッシュアップしていかなければならない点は確かにあるように思うのです。そこで,今回は小齊さんの記事をベースにしながら,日本代表に関して話を進めていくことにします。


 まず,前任指揮官時代に比較して,戦術がある意味逆行しているかのような印象を受ける原因は,最終ラインのディフェンスがマン・オリエンティッドに近い形だからではないか,ということが進藤さんの意見,そして実際にピッチに立っている宮本恒靖主将のコメントからうかがえます。
 前任指揮官時代には,完全なフラットではなかったものの,積極的に最終ラインを押し上げることで全体をコンパクトな状態に保ち,ボール奪取のポイントが比較的高い位置にあったように思います。
 対して,現在の基本戦術では積極的にボール・ホルダーを囲い込むところから攻撃を組み立てる,というイメージはなく,むしろイタリア的に堅い(マン・オリエンティッドな)ディフェンス・ラインを基盤とした(ひょっとすれば)カウンター重視のフットボールを意識しているのではないか,と思う部分があります。中盤での構成力を非常に重要視する一方で,両サイドを積極的に高い位置に置くことはせずに守備とのバランスを取っているように受け取れます。加えて,最終ラインもフラットラインを形成せず,中央のリベロを中心に一定のアングルをもって左右に開く形を採っており,最終ラインでのバランスも同様に重視しているように見受けられます。


 北朝鮮戦で時折見えた中盤での厳しいプレッシングを組織的に組み立てられるかどうか,が中田英寿選手が言う「レベルアップ」の内容のひとつであろう,と感じています。
 現在のディフェンス・ラインを大きく変更せずにプレッシングの要素を日本代表に落とし込むには,モウリーニョ率いるチェルシーのように,最終ラインをボール奪取のポイントとして想定する形のプレッシング・フットボールが適しているかも知れないな,と個人的には感じています。現在の日本代表には,前線から積極的にパス・コースを消す(=ディフェンスをこなす)ことのできる選手が多くいることからも,比較的スムーズにプレッシングを意識したフットボールに移行することは可能なはずだ,と。


 欧州カップ戦と同様に,「結果」だけが厳しく求められる最終予選という舞台ではプレッシングを強烈に意識したゲームを展開するとは考えにくいのは確かです。実際問題,最終ラインの安定性を重視した(ディフェンスありきの)チーム構成はあながち間違ったものではない,とは思うのです。
 ただ,「攻撃に積極的につなげるために」組織的な守備を前線,中盤を含めて展開している印象があまりなかったようにも思うのです。恐らく,ゲームによって不安定さを露呈したり,安定したゲームを展開したり印象を大きく変えるのは,組織性を特定の選手とのコンビネーションで担保しているからだろう,と思っています。指揮官もどこかで意識しているのでしょうけれど,そのようなスタイルは「最終予選限定仕様」ではないか,と思うところがあるわけです。


 持てる戦力を考えれば,ディフェンス重視のスタイルではフットボール・ネイションとの真剣勝負には不足する部分があるように思うのです。運動量豊富な前線,テクニックに優れる中盤のタレントを最大限に生かすためには,“ユニット”を意識した高い位置からの囲い込みが効果的ではないか,と個人的には感じています。コンフェデレーションズ・カップは存分にいろいろなアイディアを試すことができる大会です。そして,最終予選の最終戦であるイラン戦では,「本戦仕様」へとモディファイを受けたチームでグループ首位を奪取してほしい。本戦を見据えたチームのモディファイに関して,どのようなアイディアを指揮官が持っているのか.ワタシの興味はその部分にあります。