ロッシに見る、いま必要なこと。

当方の屋号に忠実に,ひさびさ「オイルの焦げた匂い」がしそうな話からはじめますと。


 motoGPディフェンディング・チャンピオンであるヴァレンティーノ・ロッシは,“ドクター”と呼ばれています。


 レプソル・ホンダでもタイトルを獲得し,ゴロワース・ヤマハに電撃的に移籍したシーズンにいきなりタイトルを奪取した彼の走りだけを見ると,天性のライディング・センスだけでマシンをコントロールしているかのような印象を受けます。ですが実際には,非常にエンジニアとのコミュニケーション能力に長けていることが,ヤマハの開発陣から聞かれます。


 確かにロッシのライディング・センスは物凄いものがあります。


 ステディさやスライド・コントロール.それらを天性の能力でまとめ上げているように思うのです。多くのライダーが2ストローク・マシンから4ストローク・マシンへ順応するのに多くの時間を必要としたのに対して,ロッシは当初から違和感なくトルク特性の異なる4ストローク・マシンをコントロールしきっていたように思います。
 しかし,マシンの挙動(あるいは問題点)を的確にエンジニアに伝える能力が高いことで,能力がさらに引き出されるといいます。与えられているパッケージの能力を最大限に引き出すために必要なものである「セッティング」において,最も重要な要素となる「情報」を共有するためのコミュニケーション能力がチーム・スタッフから評価されているのです。


 翻って今節の浦和を考えると,ロッシのアプローチから考えるべきことがあるように思うのです。


 自らの能力だけで局面を打開することも,時には重要です。
 しかし,個による局面打開は,組織性という基盤がしっかりと存在していることが大前提であるはずです。しかし千葉戦では,「局面打開」という言葉が「単独突破」という言葉とほぼ同義であるかのような印象を受けたのも確かなことです。言わば,センスだけでレーシング・マシンをコントロールしようとしているような印象を受けるのです。


 我らが攻撃陣の破壊力が強烈なことは,十分に相手チームも理解している。それゆえに,厳しいマークを付けてくることは間違いない。その守備網に単独で強引に突っ掛けていくことはない,と思うのです。


 リズムを巧く切り替えながら,相手DFのマーキングをどう剥がすか。そのためにサポートがどのような動きをしながらボールを呼び込むか。ボール・ホルダーはどのようにしてボールを捌き,さらなる突破を図るためにどう動くのか。
 高い個人能力を支えるための「組織性」をもっと意識してほしいのです。これは,ある意味ロッシが自らの高いライディング・センスを引き出すべく,レーシング・マシンを「戦う道具」に仕上げていくセッティング過程のようなものだろうと思うのです。この組織性によって,相手を崩していきたい。そして,組織性を生み出すために必要なのが“コミュニケーション”だろうと思うのです。


 戦術的な修正や戦力的な変更の前に,コーチング・スタッフ,選手がどういう攻撃を意図すべきなのか,というピクチャーを共有したい。そのためにも,しっかりとしたディスカッションが必要かも知れないな,と感じています。