もうひとつの橙色。

今回は,こちらの記事を紹介することから始めたいと思います。


 岡田武史と並んで,敵将でありながら興味を惹かれる指揮官であるイビツァ・オシム


 この指揮官が,テストマッチ(TM)で2-6-2の布陣をテストしている,との日刊の記事に触れ,(現段階では私の感覚に過ぎないのですが)今季のジェフ・ユナイテッドは大規模な反転攻勢に出るかも知れない,という感じがしました。


 組織戦術が熟成されてくれば,やはり“オレンジ・アラート”かな,と。


 この指揮官は,安易に問題をシステム論に転換する考え方には与せず,現有戦力にとっての最適なパッケージを常に見据え,その上で柔軟に布陣を考えているような印象があります。そこで,この2-6-2システムが何を意図したものなのか,過去の発言を参考書として,読み解いてみることにします。


 では,まずジェフ・ユナイテッドの公式サイト内に収録されている,あまりにも有名な「オシム語録」を参考書として準備してみます。


 このエントリを作成するにあたり,再確認の意味も込めて読み直してみたのですが。


 どうやら,今回の2-6-2のアイディアの基盤となる考え方は,就任初年度となる2003シーズンの発言の中にあるように思われます。対ベガルタ仙台戦後の記者会見における,

 「ポジションうんぬんというより、コンビネーションによるトータルサッカーを目指したい」


というコメント,Number誌の取材に対する

 「無数にあるシステムそれ自体を語ることに、いったいどんな意味があるというのか。大切なことは、まずどういう選手がいるか把握すること。個性を生かすシステムでなければ意味がない」


という考え方が,今回の2-6-2システムの基盤になっているものと推察します。また,朝日新聞に寄稿しているコラムが,今回のアイディアの背景説明になっているのではないでしょうか。このコラムの中で,多くの主力選手がチームを離れたことから,チームのパフォーマンスを昨季と同等の水準と評価することは現状ではできないし,(クラブの置かれた環境を考えれば)チームのセンターラインに対する補強も難しい,という趣旨の発言をしています。


 しかし,イビツァさんの真意は「表面的発言」の正反対に位置しているはずです。


 劣勢に立たされた状況をどのようにして跳ね返そうか,猛烈なブレイン・ストーミングをしていたのではないか.その結果としての“2バック“だろう,と。


 ちょっとシミュレートしてみれば。


 まず,2バックを本格的に基本戦術として織り込むとすれば,ボランチの役割が昨季以上に重要になるはずです。阿部選手のポジションを前方にシフトさせ,彼に対してはリベロ,あるいはストッパー的な役割を果たしながら大きく上下動を繰り返す(攻撃を仕掛ける場面では,中盤の攻撃的な選手を追い越して前線に顔を出す,など)ことが期待されているのではないでしょうか。そして,本来中盤の守備的なポジションに位置しているはずの佐藤,中島選手と中盤の底で小さなトライアングルを形成し,中盤の攻撃的な選手(場合によっては前線の1人をシャドー・ストライカー的にポジショニングさせる。)と連携してミッド・フィールドでのプレッシングを高める。そして,ハーフコート・カウンター(ショート・カウンター)を効果的に仕掛けていく。そのためには,ゴール前中央付近に人数をかけることも重要ではあるが,それ以上にディフェンス・ブロックを揺さぶるためにもサイド・アタックの充実が大きなファクタになるはず。サイド・アタックを担うだろう,林,水野選手を他の選手が追い抜く動きも期待されているはずだ,と。


 最終ラインが2人のディフェンダーだけで構成されているとは言え,基本的には守備的な発想が基盤には置かれているようなイメージであります。しかし,”専守防衛”ではなく,高い位置からのショート・カウンターを常に意識している戦術でもある,と。コンビネーションが熟成されると,かなりの威力を発揮するのではないか。


 ・・・と,ここまで書いていてハタと気がついたわけですが。


 イビツァさんが最終的に描くピクチャーは,例えて言うならば2002シーズンの磐田を象徴する“N-BOX”と,FC東京が大きな武器としているサイド攻撃のハイブリッド版ではなかろうか,と。コンビネーションの熟成がさらに進み,ポジション・チェンジがスムーズに行われるようになれば,2-6-2は「日本的なトータル・フットボール」の最適解の1つになるかも知れません。


 劣勢にあってなお攻撃的な姿勢を崩さない指揮官には,心から敬意を表します。


 現段階にあっては,主力のシーズン前の流出もあって,ジェフのポテンシャルは未知数とも言えるのですが,2-6-2システムの熟成度が高まれば,「チーム自体」が大きな脅威となる可能性を秘めていると感じます。それ以上に,最近のフットボール・トレンド(=特に一部に根強い「欧州偏重」の悪しき傾向に対して。)にポジティブな影響を与えてくれるのではないか,と密かに期待しています。