問われるものは。

藤口さんがどのような将来像を描いていたか,アウトサイドは推理するしかないけれど。


 いずれにしても,危機感があったのは間違いないところだろう,と感じます。浦和,というフットボール・クラブの基礎構造,拠って立つべき基盤を構築しないと,と。


 2004シーズン以降,現実主義的なフットボールによって,タイトル奪取を強く意識したフットボールを意識してきたのは確かなこと。しかしながら,「誰がスターターであろうと,浦和は浦和のフットボール」という状態だったのか,となると疑問が残る。「誰か」がいないと,浦和のフットボールが大きく変化してしまう。クラブとして持っている,浦和のフットボールという姿が希薄になり,「誰か」が持っているフットボールの姿が浦和のフットボールと分かちがたく結び付くようになった。それまでも,分かるようでいて実際には明確にその姿を答えられなかった,浦和のフットボール。そんな浦和のフットボールに拠って立つべき戦術基盤を構築すべく2002シーズンからリスタートしたはずだが,結果的には2002シーズンからの基盤,戦術的な約束事は失われていった,と2008シーズンには映っていた。
 危機感があったとして,その背景を考えればこのようなものでしょう。浦和として狙うべきフットボールを明確に,という意図が,2008シーズン終盤の指揮官交代の背景ではなかったかな,と思っています。そして,この指揮官交代が結果として,クラブにひとつの「柱」を通す大きなきっかけとして作用した,という印象を持つのは確かです。問題は,この柱を生かすつもりなのか,それとも,ということでありましょう。


 スポーツ・メディア各紙が,来季体制に関しての記事をアップしています。ちょっと時機に遅れた話,ではありますが,そんな記事をもとにしながら個人的に思うことを書いておこう,と思います。


 「個」を出発点とするチーム・ビルディングではなく,「組織」を出発点とするチーム・ビルディングを徹底する。意外にも,過去の浦和からは強く感じられなかった要素です。冒頭に書いたように,2002シーズンからの2シーズンは確かに組織を意識したフットボール,と見ることができます。できますが,同時に当時のフットボールは「突き抜けた個」を活かすための組織でもあって,組織として攻撃を仕掛ける,という方向性を指向するものではありませんでした。部分的に,組織的なアプローチをとっていた,と言うべきでしょうか。
 また,浦和のフットボール,ファースト・チームが表現するフットボールについて,「縦への鋭さ,速さ」など,部分的には明確に答えられる要素があるとしても,全体像としての浦和のフットボールとは,と問われたときに,戦術的なパッケージを含めて,継続的なひとつの「柱」を意識しながら答えられる状態だった,とは残念ながら言えませんでした。加えて書けば,下部組織が指向するフットボールと,ファースト・チームが指向するフットボールがほぼ相似形を描く状況になったのは,2009シーズンから,ということにもなります。ファースト・チームが3を使っていた時期に,ユースの指揮を執る堀さんは4−3−3という戦術パッケージを導入,ユースにおける“ナショナル・システム”的に位置付けて継続的なチーム・ビルディングを指向し始めた。ファースト・チームよりも早い段階で,浦和が狙うべきフットボール,明確な方向性を意識し始めていたように,個人的には感じています。
 浦和というクラブが,どのようなフットボールを指向,ピッチに表現しようとしているのか,という疑問について,ある程度の回答を提示できるようになったのが2009シーズン以降,という言い方もできようか,と。この側面において,現任指揮官が着任した意味がある,と感じるところです。
 ドリコム時代からお越しの方ですと,かなり前から書いていることでもあり,ご存じの方もおられるか,と思いますが。個人的にロール・モデルとして意識しているのは,欧州各国のリーディング・クラブ,その現在の姿ではなくて,1990年代の姿です。積極的な戦力補強も重要な要素として位置づけつつ,同時に下部組織(アカデミー)からも潜在能力を持った新戦力を引き上げていく,という姿です。具体的に書けば,ファーギーズ・フレジリングス,という形容詞が与えられていた時代のマンチェスター・ユナイテッドを,あるいは1994〜95シーズンにビッグイヤーを掲げた当時のアヤックス・アムステルダムのような姿を,浦和にあっても追い求めてほしい,と思っているわけです。であれば,浦和のフットボールを構築しようという姿勢は,ポジティブに捉えていますし,中野田で変化の胎動を感じられる,という楽しみがあるな,と感じています。


 そんな時期に,2011シーズンについての話が出てきた。


 タイトル奪取への勝負権,その勝負権を再び掌握するためのアプローチとして,どのようなジャンプを仕掛けていこうか,と意識し始めた,と見ることもできるでしょう。当然,観客動員数などについて言及する記事も散見できますから,ファースト・チームの強さを,という部分からではなくて,営業方面であったりフィナンシャルな部分から突き上げられている,と穿った見方もできるかも知れません。穿った見方が当たっているとすれば,これはこれでクラブの根幹に関わる大きな問題である,とも感じます。フットボールに限らずスポーツ・ビジネスにとって,「強さ」というのは重要な要素であることは確かです。ただ,その「強さ」は短期間で手に入れられるものでもないし,容易に継続できるものでもない。再び強さを手にするため,飛躍するために屈んでチカラを貯める。その屈みに痺れを切らしただけならば,強固な基盤を持った強さを手に入れるのは難しいのではないか,と。
 それはともかく。タイトル奪取に向けてジャンプを仕掛けるならば,2009シーズンからの蓄積,構築してきた基礎構造を活かしていけるか,がひとつの鍵となるでしょう。
 少なくとも,現任指揮官は浦和に欠けていた,「浦和のフットボール」という柱を(偶然であるとしても,結果として)クラブに通し,基礎構造を整備することに対して役割を果たしてきた。浦和に,下部組織からファースト・チームへと有機的に連鎖していくフットボール・スタイルを構築するという部分,この部分で少なからぬ貢献をしてきてくれている,と思うわけです。種を蒔き,ある程度にまで育種ができつつある段階,と言えるでしょうか。であれば,現任指揮官に継続してファースト・チームを預ける,という判断をするにせよ,新たな指揮官を招聘するという決断を下すにせよ,2009シーズンから構築してきている基礎構造,浦和というクラブに通った柱を強く意識すること,2009シーズンからの道筋を踏み外さないことは決して無視してはならない重要な要素だと感じます。


 端的に書くならば,クラブ・トップの意識が厳しく問われるのかな,と見ています。


 10シーズンがジャンプを仕掛けるタイミングとして適切なのか,に始まり,もっと基礎的なことを言うならば,クラブとしての姿勢,08シーズン当時のトップが感じた危機感を共有できているのか,09シーズンから構築してきたものに対する継続性であったり一貫性が保たれるのか,あるいは09シーズンからの基盤構築を失われたシーズンとして扱うことになるのか,という部分が厳しく問われることになるのかな,と思っています。
 そして,どのような結論が導かれるとしても,かなり重要な決断になるでしょうし,クラブの将来をある意味大きく左右する決断になろうか,と感じます。