広島対鹿島戦(天皇杯決勝・短信)。
加速しようとするタイミングで,巧みに減速させる。
単純に,加速態勢だけでリーグ戦を駆け抜けたわけではない。むしろ,リアリスティックな姿勢を徹底したところに結果を引き出した要因があるのではないか。
・・・などということを,ボンヤリと考えておりました。2007シーズン最終戦である,天皇杯決勝であります。
端的に言ってしまえば。
鹿島が描いたであろうゲーム・プランに広島が乗せられ,広島はそのゲーム・プランから抜け出すことができなかった,というようなゲームだったように思います。
まずは,立ち上がりの時間帯から仕掛けの強度を強め,得点奪取を狙う。早い段階で先制点を奪取できれば,間違いなくリズムを引き寄せることができる。守備面を基盤とするチームであれば,間違いなく意識するゲーム・プランですが,その図式にキレイにはまった。
そうなると,広島の攻撃をどのようにして抑え込むか,という要素が大きくなってくるはずです。組織的な守備戦術,でありますが,国立霞ヶ丘で展開されたフットボールは,確かにリスク・コントロールに長けたチームのものだな,という印象です。
広島のビルドアップ,その初期段階から徹底的にプレッシャーを掛ける。トップが最終ラインでボールをフィードしようとする選手に対してボール・カットするかのように距離を詰め,パス・コースを厳しく限定する。同時にディフェンシブ・ハーフ(それとも,イタリアンな表現として“チェントロカンピスタ”でしょうか。)がパス・コースを予測しながらパス・レシーバに対してプレッシャーを掛けていく。
そのために,守備ブロックにクラックを生じた状態,あるいは守備ブロックにズレを生じさせるような形が作り出せず,アタッキング・サードでの「縦への仕掛け」が作り出せない。広島が攻撃リズムを加速しようと思うタイミングで,巧みにスピードを殺すようなディフェンスを仕掛け,同時に守備ブロックが安定した陣形を取り戻すための時間(ディレイ)を作り出す。これでは,仕掛けをフィニッシュへとなかなかつないでいくことができないな,と感じました。
恐らく,広島の攻撃ユニットも焦りを感じていたはずです。ある程度のボール・コントロールをしていながら,どうしても仕掛けが崩しに移行できず,縦への収まりが悪いと。巧みにディレイを仕掛けられていたことで,「持たされていた」という感覚ではないか,と。
そして鹿島は,広島がチーム・バランスを崩す瞬間を待っていたな,と感じます。
アディショナル・タイムに展開した鹿島の仕掛けは,恐らくゲーム・プランを端的に表現したものでしょう。広島が全体的に前掛かりとなり,攻守バランスを崩したタイミングを狙って,鋭い逆襲を仕掛ける。
そうそう。戦術交代によってピッチに立った「ウワサのお方」。やはり,自ら仕留めるのではなく,さらにワンクッションを置くべくちょっとマイナス方向にトラバース・パス。まさかあの場面で,と思いましたが。
・・・ニュアンスは違うものの,相当にリアリスティックなフットボールを展開している。
指揮官のコメントを見ても,FCWCを制したクラブを率いる指揮官の発想と相似形を描いているように思えます。そんなリアリスティックなフットボールに,どのように対抗するか。そして,自分たちが培ってきたフットボール・スタイルに,どういう攻撃の機能性を付加していくか。2008スペックの目指すべき方向性は,国立霞ヶ丘でのゲームからも導ける要素がありそうです。
TVで流れを追いながらも,実際に思い描いているのは浦和のこと。虚心坦懐に2007シーズン最終戦を見ているつもりが,最終的には威力偵察的になっていたようです。