トラバース・パスの先に。

・・・もったいなかったですね。


 恐らくは,トラバースを繰り出す直前まではイメージできていたと思うのです。リターンを受けてからが,描き切れていなかったのかも知れません。


 視界には,センターに詰める選手の姿も収まったはずです。同時に,ボールにアプローチしようとする相手守備ブロックの姿も収まっていたでしょう。コースを切られる前に,トラバースを繰り出したいという意識があったとしても不思議はないのですが,そこで軌道までは描けなかったのかな,と。


 そうは言っても,攻撃参加の姿勢がなければこの形がなかったのも確かです。ウォーミングアップ・セッションでも見られるようになっている,縦に速くボールを持ち込む形が相当程度形になった,という見方もできるように思うのです。


 思えば,コンディションを落とすきっかけが「攻撃参加」という要素であったように思います。


 守備面でのスペシャリスト,特にスピードを最大の武器として攻撃の芽を摘むスペシャリストに対して,攻撃,という新たな武器が要求されます。当時の代表チーム,そのコンセプトを思えば,確かに納得できる話ではあります。GKからのフィードの段階であってもスピードを要求し,できるだけ早いタイミングでの数的優位の構築を意識させていたわけですから,DFの守備応対もその先の攻撃を強く意識させるものであったことも想像できるところです。


 この新たな要素によって,迷いを生じたのでしょう。迷いと同時に焦りも生じた,かも知れない。


 攻撃面に意識を振り向けるがために,本来基盤として機能しなければならない守備面での安定性が失われてしまったかのような時期を過ごすことになってしまいます。新たに要求された要素によって,本来のスペシャリティが抑え込まれ,パフォーマンスも,コンディションも悪化し,集中するはずだったクラブのスターターからも離れざるを得なくなる。


 悪循環,です。


 それでも,攻撃面への意識を落とすことはありませんでした。あくまでも攻撃面の意識を持ちながら,本来基盤としている守備面での安定性を取り戻す。難しいと思われるアプローチを続けていたように見えます。


 そして磐田戦での仕掛けに,迷いを生じているかのような姿はありませんでした。


 確かに,ぎこちなさは残っています。確信も深まっているとは言いにくい。はっきりと言ってしまえば,発展途上の形です。チームが描く仕掛けイメージに,しっかりと組み込まれるまでにはまだ時間が掛かるかも知れません。それでも,リターン・パスに「使う」意識は感じられます。トラバース・パスの先が,明確に描かれる時期はそう遠くないのではないか,と思います。